次は,医師の注意義務違反ネタです.これも有名な判決であり,衝撃的な内容なので熟知しておくべきでしょう.
2005年10月13日 毎日新聞
函館地裁の判決
経過 51歳女性.激しい頭痛にて救急車にて搬送.CTの結果,くも膜下出血と診断された.入院翌日脳動脈クリッピング術を行った.しかし術中に内頚動脈の近位側に血管が裂け,大量に出血した.術後患者には意識障害,四肢麻痺などの後遺症が残存した.
判決骨子と裁判官のお考え
1.動脈瘤のクリッピングに際しては,内頚動脈を露出しておく処置を行うべきである,
2.上記処置は世の中の平均的脳外科医はほとんど行っていないが,それは医療慣行にすぎない.脳外科学会のガイドラインにも記載されていないが,注意義務の基準としての(私が要求する)医療水準とは一致しない.
3.ガイドラインに記載されておらず,ほとんどの医師が行っていない行為であるが,血管確保を行っていれば後遺症が軽減された可能性が高い,でもやっていても後遺症があったかもしれないので,2770万円を支払え.
JBM 4-1:裁判官の判断は、日本で有数の専門家が書いたガイドライン以上の重みを持つ.
JBM 4-2:ガイドラインでも推奨されていない,あまつさえ合併症があるかもしれない予防措置を行っていないと,裁判では負ける.結果が悪ければどうすることもできない.
JBM 4-3:一般病院で働く医師であっても,ガイドライン作成に携わる専門家集団以上の能力を持つことが要求されている.
責められるべきは病気であるはずなのに.医師と患者は,共に手を取り合って病気と闘うパートナーであったはずなのに.ここまで医師ー患者関係が悪化した原因はどこに?
もう手遅れである.現場の医師の士気はもう二度と戻らない.10年前,待遇,給与,休暇についておおっぴらに話できない雰囲気があった.そういうことのために医療をしている訳ではない,という気概があった.いまそんなことを言う人はいない.我々は既に変わってしまったのだ.制度を変えても,人を増やしても,医者がマスコミと行政,法曹関係者に向けたこの不信感は拭えず,古き良き時代は戻らないであろう.私自身は患者のため,という部分と,自分と家族を守るためという相反する要素との妥協点を必死に探している.訴えられないための医療はつまらない.患者とともにリスクを冒し,生に向けて戦う医療をしたいと心から思う.しかし,それを発揮する場面は,残念ながら限られてきたのが現状である.
2005年10月13日 毎日新聞
函館地裁の判決
経過 51歳女性.激しい頭痛にて救急車にて搬送.CTの結果,くも膜下出血と診断された.入院翌日脳動脈クリッピング術を行った.しかし術中に内頚動脈の近位側に血管が裂け,大量に出血した.術後患者には意識障害,四肢麻痺などの後遺症が残存した.
判決骨子と裁判官のお考え
1.動脈瘤のクリッピングに際しては,内頚動脈を露出しておく処置を行うべきである,
2.上記処置は世の中の平均的脳外科医はほとんど行っていないが,それは医療慣行にすぎない.脳外科学会のガイドラインにも記載されていないが,注意義務の基準としての(私が要求する)医療水準とは一致しない.
3.ガイドラインに記載されておらず,ほとんどの医師が行っていない行為であるが,血管確保を行っていれば後遺症が軽減された可能性が高い,でもやっていても後遺症があったかもしれないので,2770万円を支払え.
JBM 4-1:裁判官の判断は、日本で有数の専門家が書いたガイドライン以上の重みを持つ.
JBM 4-2:ガイドラインでも推奨されていない,あまつさえ合併症があるかもしれない予防措置を行っていないと,裁判では負ける.結果が悪ければどうすることもできない.
JBM 4-3:一般病院で働く医師であっても,ガイドライン作成に携わる専門家集団以上の能力を持つことが要求されている.
責められるべきは病気であるはずなのに.医師と患者は,共に手を取り合って病気と闘うパートナーであったはずなのに.ここまで医師ー患者関係が悪化した原因はどこに?
もう手遅れである.現場の医師の士気はもう二度と戻らない.10年前,待遇,給与,休暇についておおっぴらに話できない雰囲気があった.そういうことのために医療をしている訳ではない,という気概があった.いまそんなことを言う人はいない.我々は既に変わってしまったのだ.制度を変えても,人を増やしても,医者がマスコミと行政,法曹関係者に向けたこの不信感は拭えず,古き良き時代は戻らないであろう.私自身は患者のため,という部分と,自分と家族を守るためという相反する要素との妥協点を必死に探している.訴えられないための医療はつまらない.患者とともにリスクを冒し,生に向けて戦う医療をしたいと心から思う.しかし,それを発揮する場面は,残念ながら限られてきたのが現状である.
もはや有名な判決ですが,取り上げます.
裁判所名・部 大阪高等裁判所 第5民事部
2次救急病院において,交通事故で搬送されてきた患者が死亡したことにつき,医師の医療行為に注意義務違反があるとして損害賠償請求が認められた事例
経過
症例は38歳の男性、単独交通事故。同時に2名運ばれたうちの1名.ちなみにもう1例はショックとなり,心肺蘇生を続けながら3次へ搬送しその後外傷性心破裂にて死亡.2次救急病院当直の脳外科医が診療.来院時の意識レベル30、バイタルサインは異常なし.頭部CT,頭部,胸部,腹部の単純X線撮影を施行したが異常なし。体表面の外傷として頬からあごにかけて、及び左鎖骨部から頸肋部にかけて打撲痕があり。血算では異常はなし、CK が197mU/mLと上昇。消化器外科の診察を依頼し,腹部には異常所見なしとの判断.緊急で処置するべき病態はなかったものの、意識障害がみられたためとりあえず経過観察の入院とした。
ところが、入院後病状は急変し,血圧測定不能となる.看護師に呼ばれ,血液ガス採血中に呼吸停止に陥る.心マッサージ,気管挿管したが効果なく,ポータブルレントゲンにて胸部に異常なし.外傷性心タンポナーデも考えて研修医時代に経験したことのある心嚢穿刺にもトライしましたが血液は得られず、蘇生への反応はなく死亡確認.
裁判官がいうにはですね..
1.死因は外傷性急性心タンポナーデである.
2.病状が安定していた2時間半の間に高度施設に搬送すれば救命できた.
3.心エコーを施行するべきであったのに怠った.
4.救急医療の現状を考えると脳神経外科医や2次救急病院として要求される水準を満たしていた.
5.しかし救急医療機関は,「救急医療について 相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」 などが要件とされているため,2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる 医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
6.よって被告医師には明らかな注意義務違反を認めることができる。4139万円を支払え.
JBM 3-1:二次救急医療機関で外傷を診療する際には,自分が救急医療に求められる水準に達しているかどうか虚心に考えること.
JBM 3-2:その水準とは,JATECの外傷初期ガイドラインに精通していることだと考えられる.「外傷→頸椎保護と心エコー」みたいに瞬間的に考えられるみたいな感じ.
JBM 3-3:その水準に達していないと考えられる場合は,二次救急医療機関で外傷を診療するべきではない.
JBM 3-4:もし外傷を診療する際は,JATECの手順通りに行う.しかしガイドラインに基づいて治療しても結果が悪いと裁判では負けるので(後述),100%救命できる場合を除いては3次に送ること
判決を素直に読み解くと,こういうことになります.すべからく2次病院には救急専門医を配置し,これを宿直ではなく当直扱いにし,労基法に乗っ取った勤務体制を保証するべきですね.それが出来ないとなると,2次で外傷は「一切」診れなくなります.それが裁判所と行政が求めていることです.国民,市民,患者ではなく.
裁判所名・部 大阪高等裁判所 第5民事部
2次救急病院において,交通事故で搬送されてきた患者が死亡したことにつき,医師の医療行為に注意義務違反があるとして損害賠償請求が認められた事例
経過
症例は38歳の男性、単独交通事故。同時に2名運ばれたうちの1名.ちなみにもう1例はショックとなり,心肺蘇生を続けながら3次へ搬送しその後外傷性心破裂にて死亡.2次救急病院当直の脳外科医が診療.来院時の意識レベル30、バイタルサインは異常なし.頭部CT,頭部,胸部,腹部の単純X線撮影を施行したが異常なし。体表面の外傷として頬からあごにかけて、及び左鎖骨部から頸肋部にかけて打撲痕があり。血算では異常はなし、CK が197mU/mLと上昇。消化器外科の診察を依頼し,腹部には異常所見なしとの判断.緊急で処置するべき病態はなかったものの、意識障害がみられたためとりあえず経過観察の入院とした。
ところが、入院後病状は急変し,血圧測定不能となる.看護師に呼ばれ,血液ガス採血中に呼吸停止に陥る.心マッサージ,気管挿管したが効果なく,ポータブルレントゲンにて胸部に異常なし.外傷性心タンポナーデも考えて研修医時代に経験したことのある心嚢穿刺にもトライしましたが血液は得られず、蘇生への反応はなく死亡確認.
裁判官がいうにはですね..
1.死因は外傷性急性心タンポナーデである.
2.病状が安定していた2時間半の間に高度施設に搬送すれば救命できた.
3.心エコーを施行するべきであったのに怠った.
4.救急医療の現状を考えると脳神経外科医や2次救急病院として要求される水準を満たしていた.
5.しかし救急医療機関は,「救急医療について 相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」 などが要件とされているため,2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる 医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
6.よって被告医師には明らかな注意義務違反を認めることができる。4139万円を支払え.
JBM 3-1:二次救急医療機関で外傷を診療する際には,自分が救急医療に求められる水準に達しているかどうか虚心に考えること.
JBM 3-2:その水準とは,JATECの外傷初期ガイドラインに精通していることだと考えられる.「外傷→頸椎保護と心エコー」みたいに瞬間的に考えられるみたいな感じ.
JBM 3-3:その水準に達していないと考えられる場合は,二次救急医療機関で外傷を診療するべきではない.
JBM 3-4:もし外傷を診療する際は,JATECの手順通りに行う.しかしガイドラインに基づいて治療しても結果が悪いと裁判では負けるので(後述),100%救命できる場合を除いては3次に送ること
判決を素直に読み解くと,こういうことになります.すべからく2次病院には救急専門医を配置し,これを宿直ではなく当直扱いにし,労基法に乗っ取った勤務体制を保証するべきですね.それが出来ないとなると,2次で外傷は「一切」診れなくなります.それが裁判所と行政が求めていることです.国民,市民,患者ではなく.
日赤に賠償命令 男児感染死で説明怠る 姫路
2007/01/27
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。
判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。
さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
姫路赤十字病院の企画情報課は「判決文を見てないのでコメントは差し控えたい」としている。
JBM 2:研究会が存在する疾患の治療は,その研究会に属している施設でしか行わない.もしくは研究会に属していないことを説明し,研究会に属している医療施設に転院させる.
例:深在性真菌症サーベイ研究会,呼吸器真菌症研究会などに属していない場合は,真菌感染症の患者は転院させるか研究会に参加する.
例2:日本ブドウ球菌研究会に属していない場合はMRSAなどの治療は行わず,患者を転院させる.もしくは研究会に属していないことを説明する.
例3:アミオダロン研究会に参加していない場合は,アンカロンを処方しない.アンカロン研究会に参加するか,参加していないことを説明し同意を得るか,参加している病院に転院させる.
マジですか......
2007/01/27
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。
判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。
さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
姫路赤十字病院の企画情報課は「判決文を見てないのでコメントは差し控えたい」としている。
JBM 2:研究会が存在する疾患の治療は,その研究会に属している施設でしか行わない.もしくは研究会に属していないことを説明し,研究会に属している医療施設に転院させる.
例:深在性真菌症サーベイ研究会,呼吸器真菌症研究会などに属していない場合は,真菌感染症の患者は転院させるか研究会に参加する.
例2:日本ブドウ球菌研究会に属していない場合はMRSAなどの治療は行わず,患者を転院させる.もしくは研究会に属していないことを説明する.
例3:アミオダロン研究会に参加していない場合は,アンカロンを処方しない.アンカロン研究会に参加するか,参加していないことを説明し同意を得るか,参加している病院に転院させる.
マジですか......
帝王切開賠償訴訟、市に1億4300万円支払い命令←リンク
神奈川県大和市立病院で1997年、帝王切開が遅れたため重い後遺症が残ったとして、東京都内の養護学校4年の男子児童(10)と両親が、市に介護費用や慰謝料など約1億9200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、横浜地裁であった。
三木勇次裁判長は「(帝王切開は)遅きに失し、後遺症との因果関係が認められる」と述べ、市に約1億4300万円の支払いを命じた。
判決によると、男児の母親(35)は97年2月24日、陣痛が起きて入院した。胎児に心拍数の低下などの異常があったことから、病院は帝王切開を決めたが、手術決定から出産まで約1時間20分かかり、男児は仮死状態で生まれて低酸素脳症となり、四肢がマヒする重度の障害が残った。
三木裁判長は「心拍数が低下した時点で、病院は帝王切開の準備をする義務があったが、怠った。夜間、麻酔科医らが常駐しておらず、医師を呼び出すなど出産まで1時間以上かかった」と指摘した。
大宮東生・院長は記者会見で、「可能な限り適切な処置を行っており、過失はない。後遺症との因果関係もない」と話し、市として控訴する方針を明らかにした。
(2007年2月28日23時1分??読売新聞)
JBM 1-1: 麻酔科が常駐していない病院では,出産を扱わないこと.
JBM 1-2: 胎児心拍が低下したら,直ちに例外なく帝王切開の準備をすること.
胎児心拍が低下したら,たとえ経過観察でそれが改善しても,する可能性があっても直ちに帝王切開の準備をしなければならない.さらに緊急手術を決定してから児を取り出すまでに1時間以上掛かると過失となる.麻酔科医師が常駐していてもいなくても,緊急手術は1時間以内に行わないと,必要な処置を「怠った」ことになり,要求されるレベルを満たしていないことになる.よってそのような病院では産科診療は控えるべき.ほんとですか?
神奈川県大和市立病院で1997年、帝王切開が遅れたため重い後遺症が残ったとして、東京都内の養護学校4年の男子児童(10)と両親が、市に介護費用や慰謝料など約1億9200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、横浜地裁であった。
三木勇次裁判長は「(帝王切開は)遅きに失し、後遺症との因果関係が認められる」と述べ、市に約1億4300万円の支払いを命じた。
判決によると、男児の母親(35)は97年2月24日、陣痛が起きて入院した。胎児に心拍数の低下などの異常があったことから、病院は帝王切開を決めたが、手術決定から出産まで約1時間20分かかり、男児は仮死状態で生まれて低酸素脳症となり、四肢がマヒする重度の障害が残った。
三木裁判長は「心拍数が低下した時点で、病院は帝王切開の準備をする義務があったが、怠った。夜間、麻酔科医らが常駐しておらず、医師を呼び出すなど出産まで1時間以上かかった」と指摘した。
大宮東生・院長は記者会見で、「可能な限り適切な処置を行っており、過失はない。後遺症との因果関係もない」と話し、市として控訴する方針を明らかにした。
(2007年2月28日23時1分??読売新聞)
JBM 1-1: 麻酔科が常駐していない病院では,出産を扱わないこと.
JBM 1-2: 胎児心拍が低下したら,直ちに例外なく帝王切開の準備をすること.
胎児心拍が低下したら,たとえ経過観察でそれが改善しても,する可能性があっても直ちに帝王切開の準備をしなければならない.さらに緊急手術を決定してから児を取り出すまでに1時間以上掛かると過失となる.麻酔科医師が常駐していてもいなくても,緊急手術は1時間以内に行わないと,必要な処置を「怠った」ことになり,要求されるレベルを満たしていないことになる.よってそのような病院では産科診療は控えるべき.ほんとですか?




